「折り紙付き」と「札付き」

折り紙付きと札付き。取り違えそうによく似た言葉ですが、意味はまったく反対です。
小学館の『国語辞典』によると、折り紙付きは「確かなものだと、うけあうこと。保証つき」とあり、「札付き」は「わるいと定評のあること、また、その人」とあります。そして一般的に「折り紙付き」は物品につけられ、「札付き」は人間に付けられることが多いようですが、これはその語源に由来するのです。

 

現代の戸籍簿に相当するのが「五人組帳」や「宗門人別帳」ですが、これには世帯主以
下、同居する家族の名前と年齢および続柄が記載されています。

 

江戸時代は武士、庶民を問わず連帯責任なので、犯罪者が出ると家族はもちろん五人組
や組頭、名主まで処罰されました。ですから犯罪を犯しそうな乱暴者は五人組帳から取り除きます。そのとき五人組帳の該当者のところに「何年何月〇〇により除け帳」などと書いた札を張りました。これを「札付き」と呼びます。除け帳になった者は無宿人です。

 

「折り紙付き」の折り紙は、室町将軍家以来、信長、秀吉、さらに徳川将軍家に仕えた
刀剣鑑定の家元である本阿弥家が発行した、刀剣の鑑定書です。

 

和歌などを書くのに使用する懐紙を、横に二つ折りにし、鑑定した刀の名前と長さそ
の評価額と年月日などが書かれています。裏には角形の中に「本」の字の大きな黒印が押してありますが、この印は本阿弥光徳が豊臣秀次から拝領したものです。

 

本阿弥家は鑑定を依頼された刀を、初代本阿弥陀仏妙本の命日である毎月三日に、本・
分家11家が本家に集まり鑑定をしました。ですから三日以外の日付の折り紙は偽物です。

 

本来は刀剣の真贋を認定する折り紙でしたが、江戸時代も中期以後になるとワイロの道
具になりました。何故なら武士の象徴である刀剣の贈答は、儀礼として認められたのです。

 

たとえば本阿弥家に「この刀に代10枚の折り紙をつけてほしい」と頼み、その折り紙を
付けて刀を贈ります。貰った方はそれを本阿弥家に折り紙の値段で売ります。もちろん代金10枚(100両)はあらかじめ預けてあります。このような折り紙を「柳沢折り紙」と呼ぶ人もいます。これは柳沢吉保が五代将軍綱吉の寵愛を受け、権威を振るうようになったころから出回りはじめたからです。

 

今でも折り紙付きの刀がありますが、さすがに現代まで伝えられたものは、大名家伝来
の名刀が多いのですが、中には似たような刀に付けた「合わせ折り紙」もありますから、注意が必要です。お互い、折り紙付きにはなれなくても、札付きにはならないように。