「龍馬降臨」

コロナウイルス騒ぎで、外出もままならぬ日々を送っていたら、東京・杉並の古書画店
からの通販カタログが届きました。この店とは先代からの付き合いです。

 

歴史ある店ですから決して安くはありませんが、品物は信用できます。

 

それでもコロナショックで多少は安くなっているカナ、と期待しながらページをめくっていると、「坂本龍馬肖像画 公文菊僊画中嶋気筝賛」という文字に目が止まりました。
 

公文菊僊は1873年(明治6年)高知県高知市に生まれ、1945(昭和20年)に亡くなった画家
です。 この人は膨大な数の龍馬像を描きました。ですから以前からいろいろな古美術商
のカタログに掲載されていたのですが、人気のある龍馬ですから高価だったのです。バブルのころは10万円以上もしました。しかしたくさん出回ったので、今ではアマゾンにも出品されるようになりました。当然価格も下がり、お小遣い程度で買えるようになったのです。

 

もちろん私はすぐに連絡をとり、購入しました。

 

龍馬像は鼠色の着物に白の袴をつけ、黒の羽織を着ています。羽織の紋は組み合わせ角
に桔梗で、両胸と背中のいわゆる三所紋です。だらりと下げた右手は黒鞘の大刀を持っています。刀身は、陸奥守吉行(東北出身で、1670年ころ土佐で活躍した刀工)でしょうか。


歴史雑誌には「体格五尺八寸(1m70㎝)、筋肉たくましく顔色鉄のごとし、額広く」とありますが、それほど色黒には描かれていません。たしかに額は広く、細目がちで、残念ながら「龍馬伝」の福山雅治とは似ても似つかない顔立ちです。

 

賛文は「征露の当年国母労す 一夜玉枕の夢に徠徂 跪して奏す臣坂本龍馬 云々」と
あります。これは日露戦争のおり、心配した皇后の夢に龍馬が出てきて、私が国を守り戦争は必ず勝ちます、と告げたことを詠っています。この話は当時、新聞にとりあげられ、大評判になったのですが、おもしろい裏話があります。

 

龍馬像のとなりには、「君子は必ずその独を慎む」と龍馬が書いた文字を刻んだ石碑の
拓本を飾りました。君子(立派な人)は一人でいるときでも決してダラケない、という意味です。この石碑は山梨県市川大門の碑林公園にあります。

 

思いがけなく坂本龍馬像を手に入れ、床の間に飾りお酒を飲んでいると、まるで私の部
屋に龍馬が降臨したような気分になります。